おそらく作者の意図とは別の方面から「老い」を描くことになった大長編。
主人公の山形は健康な体と趣味に金を注げる収入があり、同じアパートに住む若者や同世代とも良好な人間関係を築いている。世間の流行や金に囚われない幸せを日常に見出し、老年期に進む中年として老いを味わう余裕がある。
…が、作中時間が進むにつれて状況は変わってくる。過剰なほどだった女性関係の精力が消え、自分の人生を見つけ始めた若者とは会話がなくなる。外出が減り、無茶な出費が増え、同じ中年男性と酒を交えた世間への愚痴がページの大半を占めるようになる。
漫画としても人物のバストアップと台詞がコマを占拠し、背景は簡略化され解像度が下がっていく。シリーズが進み、キャラクターであるはずの山形が作者のアバターとなり独り部屋で現実の著名人を延々と口撃する頃…一部ネットで有名な"毒おじ"の姿がある。そしてそれすら老境の終着点ではない。
老いを楽しむ心身が劣化すること。楽しみを感じる感性が摩耗すること。「老い」の無情な力に枯れていく、かつて一時代を築いた漫画家の姿がある。時折蘇る作者の才覚を砂漠の井戸のように楽しめる人におすすめ。